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福島地方裁判所 昭和32年(行)4号 判決 1958年7月11日

原告 橋谷田又衛

被告 高郷村選挙管理委員会

主文

一、被告が昭和三二年三月一四日福島県河沼郡高郷村村議会議員橋谷田又衛解職請求者署名簿の署名の効力に関する原告の異議申立につきなした決定のうち、別紙第一目録、第三目録、第四目録記載の各署名及び第五目録記載の署名中401・556・587・853・872に関する部分を取消す。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三二年三月一四日福島県河沼郡高郷村村議会議員橋谷田又衛解職請求者署名簿の効力に関する原告の異議申立につき別紙第一ないし第五目録記載の各署名を有効とした決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は、福島県河沼郡高郷村村議会議員の選挙権を有し、且つ同村第二選挙区(旧山郷村の区域)から選出された村議会議員であるが、被告は右選挙区における一部有権者の代表者である訴外森田清に対し昭和三一年一二月一八日原告の解職請求代表者証明書を交付し、その旨告示した。そこで森田清は直ちに署名収集の運動を開始し、その有権者総数一、二四二名のうち法定数(三分の一)四一四名を超える七六四名の署名を得たと称し、翌三二年一月一八日署名簿一五冊を被告に提出した。

二、被告は右署名簿について審査を行い、署名総数七六四名の内四八を無効としたが、その余の七一六を有効と決定し、同年二月八日から同月一四日まで右署名簿を関係人の縦覧に供した。

三、よつて原告は同月一三日及び同月一四日の二回にわたり、前記署名簿中被告が有効とした左記上欄記載の署名は、下欄記載の理由によつていずれも無効である旨の異議申立をした。

(一)  第一目録記載の各署名(三四) 署名収集当時、署名収集委任状に解職請求代表者森田清の押印がなかつたこと。

(二)  第二目録記載の各署名(六六) 前同及び解職請求代表者森田清から収集の委任を受けない者が収集した署名であること。

(三)  第三目録記載の各署名(三二) 署名収集当時、署名収集委任状に解職請求代表者森田清の押印がなかつたこと。

(四)  第四目録記載の各署名(七六) 前同

(五)  第六目録記載の署名中464・465・479を除く451から501までの各署名(四八) 前同

(六)  第七目録記載の署名中611から665までの各署名(五五) 前同

(七)  第五目録記載の各署名(五八) いずれも本人の自署ではなく、他人が代筆したものであること。

四、被告は原告の右異議申立につき審査した結果、前記(五)の署名四八(署名簿第九号)及び(六)の署名五五(署名簿第一二号)については原告の異議申立を正当と認めいずれもこれを無効としたが、その余の第一ないし第五目録記載の署名については有効と決定した上、有効署名数を六一三と修正して同年三月一四日その旨原告に通知した。

五、しかし別紙第一ないし第五目録記載の各署名は、前叙第三項記載の理由により全部無効である。(もつとも現在収集委任状には解職請求代表者森田清の名下に印が押なつされているが、これは署名収集後被告に提出する直前に押なつしたものである。)

六、かりに右主張が容れられないとしても、本件解職請求の署名は解職請求に関する立法精神に反し権利の濫用であるから無効である。すなわち、前示高郷村は、昭和三〇年河沼郡に属する旧新郷村、高寺村、千咲村の三ケ村及び耶麻郡所属の旧山郷村の四ケ村が合併して新設されたものなるところ、原告の属する旧山郷村住民の一部は昭和三一年頃から村役場庁舎の荻野地区への移転問題に端を発し、分村を主張して強力にその運動を展開して来た。一方高郷村村議会(議員二一名)は右一部住民の主張に絶対反対の意思を表示し、その旨決議するに至つたので、かりに、原告ら山郷地区選出の議員七名が一部住民の希望に従い強硬に村役場の移転ないし分村を主張したとしても、村議会における議員数の比率からみて到底所期の目的を実現することは不可能な客観的状勢におかれたのである。そこで原告は政治家としての良心に従い大局的見地にたつて新しい村の育成強化に努力すべく、実現不能な分村運動等には同調しない態度をとつたところ、これを不満とする前示一部の住民は原告に対する反抗手段として解職請求に名を藉りて原告の議員たる地位を剥奪すべく本件解職請求の挙に出たのである。おもうに公務員たる村議会議員は全体の奉仕者であつて一部の者への奉仕者ではないのであるから、高郷村全体の健全なる発達と住民の福祉増進を図る立場、つまり村議会における絶対多数の意見に同調して行動するを以て、高郷村村議会議員の責務であるとの観点にたつた原告の態度はまことに正当であるといわなければならないのに、一部住民の不純な動機に基因する本件解職請求を目的とする署名者の行為は解職請求という制度を設けた憲法及び地方自治法の精神に反するものであつて、右のような意図のもとになされた本件署名はまさに権利の濫用で無効というべきである。

七、よつて、被告が別紙第一ないし第五目録記載の各署名を有効とした決定の取消を求めるため本訴に及んだ。

と述べた。

被告訴訟代理人は、別紙第五目録記載の各署名に関する決定の取消を求める部分につき本案前の抗弁として、市町村選挙管理委員会が署名の効力に関する異議申立に対してなす決定はその異議申立の対象となつた各署名ごとにそれぞれ各個の処分をなすものであるから、地方自治法第七四条の二第八項による訴も所定の期間内(本件の場合は原告が処分のあつたことを知つたと称する昭和三二年三月一四日から同月二八日まで)に各個の署名を具体的に特定して提起することを要するのであるが、原告は、昭和三二年三月二七日提出の訴状においてその請求原因第三項として、単に「代筆者が相当多数あるにかかわらず被告はこれを有効と認めておる」と記載するにとどまり、具体的にどの署名が代筆で無効であるかにつき明確にしていなかつたところ、同年五月二一日に至り訴状訂正申立書によつてはじめて第五目録記載の署名が代筆によつて無効である旨を主張するに至つたのである。従つてこの点に関する本件訴は、法定の出訴期間を経過した後に提起されたことになるから、不適法として却下せらるべきである。

と述べ、本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その答弁として、原告主張の請求原因のうち一、ないし四、の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

と述べた。

(証拠省略)

理由

原告主張の一、ないし四、の事実は当事者間に争がない。

そこで別紙第一ないし第五目録記載の各署名の効力について判断する。

(一)  第一目録について、

成立に争のない甲第二号証、乙第一号証、原告本人尋問の結果によつて成立を認める甲第三号証の一、三、四、五、六、証人荒井貞次、橋谷田久一、橋谷田三次郎の各証言に原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると、別紙第一目録関係の署名簿第一号に関する署名収集は、昭和三一年一二月三一日から翌年一月一日までの二日間にわたり、収集代理人橋谷田信芳、橋谷田豊栄、物江源太郎らの三名によつて行われたのであるが、右収集当時署名簿に添付されていた署名収集委任状には解職請求代表者森田清の名下に押印がなかつたことが認められる。証人橋谷田信芳、橋谷田豊栄、物江源太郎、阿部正吉、森田清、貝沼寅重、小林春次(第一回)の各証言及び被告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠や成立に争のない甲第八号証の記載、証人宮沢喜代衛の証言等に照らし措信できない。してみれば、第一目録記載の各署名は法令の定める成規の手続によらないで収集された署名であるから、全部無効というべきである。従つてこれを有効とした前示決定は違法として取消を免れない。

(二)  第二目録について、

原告は、署名簿第五号の署名収集当時署名簿に添付されていた収集委任状には解職請求代表者森田清の名下に押印がなかつたし、また受任者でない者(収集代理人の妻)が署名を収集したと主張するけれども、この点に関する証人志田信義の証言及び原告本人尋問の結果は後掲各証拠と対比して措信し難く、他に右主張事実を肯認するに足りる証拠はない、かえつて証人田代大八、岡島文志、吉田松次郎、須藤義平、吉井吉太郎、田代於栄の各証言を綜合すると、署名簿第五号の署名収集は、昭和三一年一二月二九日から翌年一月二日までの五日間にわたり行われたが、右収集当時署名簿に添付されていた署名収集委任状には代表者森田清の名下に押印があつたこと、田代於栄は収集代理人田代大八の妻であつて、本件署名収集の受任者ではなかつたけれども、署名収集の際夫大八が他出したので、自分が夫の代理として他の収集者と共に歩かなければ申訳ないと思い他の収集代理人と一緒に部落内を歩き廻つた事実はあるが、積極的に署名を求めたり、単独で署名を収集したりしたものではないことが認められるのであるから、第二目録記載の各署名の収集については、原告主張のような違法があつたものとは認められない。よつてこれを有効とした前示決定は正当であり、この点に関する原告の請求は失当である。

(三)  第三目録について、

前示甲第二号証、乙第一号証の各記載、証人物江一、物江一成の各証言及び原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すると、署名簿第一〇号の署名収集は、昭和三二年一月一日から同月四日までの四日間にわたり、収集代理人物江茂、物江忠、物江弘、物江清の四名によつて行われたが、右収集当時署名簿に添付されていた署名収集委任状には解職請求代表者森田清の名下には押印がなかつたことが認められる。証人物江弘、物江茂、物江忠、物江清、物江春見、森田清、貝沼寅重、小林春次(第一回)の各証言及び被告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠、前示甲第八号証の記載及び証人宮沢喜代衛の証言に照らして措信できない。してみれば、第三目録記載の各署名は、第一目録記載の各署名と同一の理由により全部無効というべきであるから、これを有効とした前示決定は失当として取消さるべきである。

(四)  第四目録について、

前示甲第二号証、乙第二号証の各記載、証人物江一成、田代幸雄、田代トシの各証言及び原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すると、署名簿第一三号の署名収集は、昭和三一年一二月三一日から翌年一月二日までの三日間にわたり収集代理人五十嵐俊雄、田代全、田代忠次、五十嵐貞夫らによつて行われたが、右収集当時署名簿に添付されていた署名収集委任状には解職請求代表者森田清の名下に押印のなかつたことが認められる。証人五十嵐貞夫、田代定雄、五十嵐俊雄、田代全、田代忠次、物江光人、森田清、貝沼寅重、小林春次(第一回)の各証言及び被告代表者本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲各証拠及び前示甲第八号証の記載、証人宮沢喜代衛の証言等と対比して措信できない。してみれば、第四目録記載の各署名は、第一目録記載の各署名と同一の理由によつて全部無効というべきであるのに、これを有効とした前示決定は違法のものとして取消を免れない。

(五)  第五目録について、

(イ)  先ず被告の本案前の抗弁について案ずるに、市町村選挙管理委員会が地方自治法第八〇条第四項によつて準用される同法第七四条の二第五項により署名簿の署名の効力に関する異議申立に対してなす決定は異議申立の対象となつた各署名ごとに一個の処分であることは、被告主張のとおりではあるが、同条第八項による不服の訴は、同項に規定される訴の形式からみても明らかなように、直接個々の署名の効力を確定することを目的とするものではなく、右各決定の当否を審査するいわゆる抗告訴訟の形態をとつているものと解すべきであるから、原告としては同項所定の期間内に異議申立に対してなされた決定のうち、自己が不服であるとする決定そのものを特定して訴を提起すれば足りるのであつて、必ずしも被告主張のように各個の署名を具体的に明示して訴を提起しなければならないものではないと解すべきである。これを本件についてみるに、訴状によると、原告はその請求の趣旨において「昭和三二年三月一四日高郷村選挙管理委員会がなした橋谷田又衛に対する村議会議員解職異議棄却の決定の取消を求め」(成立に争のない甲第一号証の四の記載によると、第五目録関係の署名は、右決定において判断の対象となつていることが認められる。)、その請求原因において、右決定に不服である旨を記載しているのであるから、本件訴には被告主張のような違法はないものといわなければならない。よつて被告の抗弁は排斥を免れない。

(ロ)  そこで各署名の効力について順次考えてみるに、

(1)  「110長沼宮子」の署名については、証人長沼宮子、神田要一郎の各証言により、

(2)  「112川口八重子」の署名については、証人川口八重子、神田要一郎の各証言により、

(3)  「124田中貢」の署名については、証人田中貢、神田要一郎の各証言により、

(4)  「129橋本キイ」の署名については、証人橋本キイ、田代数馬、佐藤重利の各証言により、

(5)  「160須藤マツノ」の署名については、証人須藤マツノ、渡部惣市の各証言により、

(6)  「171植木啓吉」の署名については、証人木村市四郎の証言により、

(7)  「183宮島フヂ」の署名については、証人宮島フヂの証言により、

(8)  「199佐藤春英」の署名については、証人佐藤春英の証言により、

(9)  「205渡部ウン」の署名については、証人渡部ウン、佐藤春英、渡部喜三郎の各証言により、

(10)  「271斎藤タケノ」の署名については、証人富田高衛の証言により、

(11)  「280物江ヨシノ」の署名については、証人物江ミドリ、富田高衛の各証言により、

(12)  「298坂田トメ」署名については、証人坂田トメ、富田高衛の各証言により、

(13)  「277唐橋サキ」の署名については、証人唐橋サキ、富田高衛の各証言により、

(14)  「288斎藤市野」の署名について、証人斎藤市野、富田高衛の各証言により、

(15)  「279物江ミドリ」の署名については、証人物江ミドリ、富田高衛の各証言及び鑑定人本田四郎の鑑定の結果により、

(16)  「336佐藤ハツ」の署名については、証人佐藤ハツ、高橋周二の各証言により、

(17)  「343高橋義美」の署名については、証人高橋周二の証言により、

(18)  「350高橋末雄」の署名については、証人高橋末雄、山口伝の各証言により、

(19)  「375上野留吉」の署名については、証人上野文太の証言により、

(20)  「391小島越造」の署名については、証人小島越造、栗田長衛の各証言により、

(21)  「403名子甚七」の署名については、証人名子甚七、栗田長衛の各証言により、

(22)  「445見目玲子」の署名については、証人見目玲子、福地政江の各証言により、

(23)  「424大竹タツ」の署名については、証人大竹タツの証言及び前示鑑定の結果により、

(24)  「557五十嵐フヂノ」の署名については、証人五十嵐フヂノ、細川栄二の各証言により、

(25)  「560福地ミチヱ」の署名については、証人福地ミチヱの証言により、

(26)  「561福地高子」の署名については、証人福地高子、福地ミチヱ、細川栄二の各証言及び前示鑑定の結果により、

(27)  「568福地一ノ」の署名については、証人福地一ノ、細川栄二の各証言により、

(28)  「576福地ナツ」の署名については、証人福地ナツ、細川栄二の各証言により、

(29)  「584細川キミ」の署名については、証人細川キミ、細川栄二の各証言及び前示鑑定の結果により、

(30)  「772小林キノ」の署名については、証人小林キノ、小林健治、小林正美の各証言及び前示鑑定の結果により、

(31)  「776小林チヨノ」の署名については、証人小林チヨノの証言及び前示鑑定の結果により、

(32)  「785小林ヤス」の署名については、証人小林ヨシ、小林健治、小林正美の各証言により、

(33)  「790武藤トヨ」の署名については、証人武藤トヨ、小林健治の各証言により、

(34)  「800小林キヨノ」の署名については、証人小林キヨノ、小林健治、小林正美の各証言により、

(35)  「802小林清久」の署名については、証人小林清久、小林正美の各証言により、

(36)  「805田中秋子」の署名については、証人田中秋子の証言により、

(37)  「807小林タミイ」の署名については、証人小林タミイ、小林健治、小林正美の各証言により、

(38)  「810武藤たけ」の署名については、証人武藤たけ、小林健治の各証言により、

(39)  「811渡辺勝」の署名については、証人渡辺勝、小林健治の各証言により、

(40)  「819小林ツ子」の署名については、証人小林ツ子、小林健治の各証言により、

(41)  「823小林太吉」の署名については、証人小林太吉、小林健治、小林正美の各証言により、

(42)  「827田代豊」の署名については、証人田代豊の証言により、

(43)  「832小林ミス」の署名については、証人小林ミス、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

(44)  「836小林タカ」の署名については、証人小林タカ、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言及び前示鑑定の結果により、

(45)  「841小林吾妻」の署名については、証人小林吾妻、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

(46)  「843栗田イチミ」の署名については、証人小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

(47)  「846小林キクヨ」の署名については、証人小林キクヨ、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

(48)  「849小林正次」の署名については、証人小林正次、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言及び前示鑑定の結果により、

(49)  「857斎藤又蔵」の署名については、証人斎藤又蔵、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

(50)  「861相良イチヨ」の署名については、証人相良イチヨ、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

(51)  「863相良シン」の署名については、証人相良シン、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

(52)  「873小林睦雄」の署名については、証人小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

(53)  「880武藤志津江」の署名については、証人武藤志津江、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、いずれも本人の自署であることが認められる。右認定に反する証拠はない。

(ハ)  次にその余の署名について案ずるに、

(1)  「401田代松枝」の署名については、証人栗田長衛、小島越造、田代松枝の各証言により、

(2)  「556五十嵐キン」の署名については、前示鑑定の結果により、

(3)  「587横田キヨイ」の署名については、前示鑑定の結果により、

(4)  「853斎藤マサノ」の署名については、証人斎藤マサノ、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

(5)  「872小林シノ」の署名については、証人小林シノ、小林新一、栗田治躬、武藤勘一の各証言により、

いずれも本人の自署ではないことが認められる、右認定に反する証人細川栄二、五十嵐フジノ、五十嵐キン、横田キヨイの各証言は前叙証拠に照らしいずれも信用しない。

よつて、第五目録記載の署名中401・556・587・853・872の各署名はいずれも無効というべきである。

しからば以上各署名のうち(401)田代松枝、(556)五十嵐キン、(587)横田キヨイ、(853)斎藤マサノ、(872)小林シノの各署名を有効とした前示決定は違法であり、これが取消を免れないが、その余の署名を有効とした前示決定は正当であり、この点に関する原告の請求は失当である。

(六)  原告は、以上の判断により無効とされなかつた署名についても、本件解職請求は権利の濫用であるから無効である旨主張する。なるほど弁論の全趣旨を総合すると、本件解職の請求は、高郷村における旧山郷村所属の一部住民が、村役場をば早急に所轄荻野地区に移転すべきことを要求し、同地区選出の議員でありながら、村議会の多数意見に同調して村当局の時期尚早説に賛成して譲らない原告の態度を不満として、原告の議員たる地位を剥奪せむと企図してなされたものであることが窺われるのである。そして現行議会制度の下においては、議員は地域ないし特定の利益代表者ではないのであるから、選出された選挙区の如何にかかわらず、国ないし地方公共団体全部の利害休戚を考慮してその職務を遂行すべきは寧ろ当然であり、これら全体の利益のためには個々の選挙区ないし選挙人の利益を犠牲にすることもまたやむを得ない場合が少くないのである、従つて原告が政治家としてこの理念に徹し選挙区民の意思に反して行動したとしてもこれを非難するには当らないのであるから、原告が村議会議員としての適格を缺くとする本件一部住民の意図は当を得たものではないようにも考えられる。しかし原告が高郷村の村議会議員としての適格を欠くかどうか、ないしこれに基く解職請求が正当であるかどうかの如きは選挙人である高郷村民の良識ある判断にまつべき事柄であつて、署名の効力に関する訴訟において裁判所がこの点にまで立ち入つて判断する権限を有しないものと解すべきであるから、原告の右主張は採用することはできない。

なお原告は、(128)橋本勝四郎、(446)見目清義、(569)福島キンノ、(575)福島直江、(588)横田仁士、(589)横田サクラ、(828)田代ロク、(852)斎藤サダノの各署名についても、本人の自署ではないのに、これを有効とした被告の決定は違法であつて取消さるべきであると主張するけれども、弁論の全趣旨によると、原告はこの点につき異議を申立てなかつたので、被告もこれにつき何等の判断をもしていなかつたものであることが認められる本件では、当裁判所の判断の対象とならないことはいうまでもない。

以上の次第で、原告の本訴請求は、前記決定のうち、第一目録、第三目録、第四目録記載の各署名及び第五目録中401・556・587・853・872の各署名に関する部分の取消を求める限度において正当としてこれを認容すべきであるが、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 檀崎喜作 大和勇義 佐々木泉)

(別紙目録省略)

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